この恋は、風邪みたいなものでして。
「華寺さん、手が開いたらこっち、クリーニング室へお願い」
「はい」
「華寺さん、チェック表知らない? 触った?」
「触ってません」
「ねー。ピアノ動かす人まだ? もう明日でもいいんじゃない?」
右へ左へ走りまわり、あんなに食器や椅子、デーブルで溢れていたホールは、壁際の椅子と、端っこに置かれたグランドピアノだけになっていた。
が、ピアノをレストランへ戻す作業がまだ始まっても居ない。
ピアノを戻さなければ鍵を閉めるに閉めれず、スタッフは身動きが取れない。
段々皆から、疲労と苛々している様子が伝わってくる。
時計も――もうすぐ22時。
颯真さんに言っていた時間を大幅に過ぎてしまった。
こんな遅くに部屋に伺うのは申し訳ないな。
でも連絡先知らないし。
「終電ヤバい人多いし、もう後は帰っていいってよ」
菊池さんが入り口で大きく手を振って、教えてくれた。
お陰で、皆が安堵の表情を浮かべる。
「菊池さんはまだ帰らないんですか?」
出ていこうとして、入り口で手を振る菊池さんに尋ねた。
「店長に此処の鍵渡すから最後までいるよ」