この恋は、風邪みたいなものでして。
「私、もう少し此処に用事あるので、代わりに渡しておきますよ」
「ソレは駄目!」
強い口調で断った菊池さんは、しまったと明らかに表情を変えた。
そして取り繕うに笑うけど、目が泳いでいる。
「あのね、今日は皆と一緒に出た方が良いんじゃないかな」
「どうしてですか?」
「その、えっとね、向かいのカフェに居たよ」
一瞬迷った様子で、教えてくれた。
「笹谷くん、華寺さんを待ってるんじゃないかな」
「柾が……?」
さあーっと血の気が引いてしまう。
昨日の今日で私を送って行くつもりなのかな。
でも、そんなはずないし。
「だから、華寺さん、怖がってるみたいだし、一緒に皆と帰りなよ。人の目があれば笹谷くんも強引に来ないでしょ?」
「だ、大丈夫です。大丈夫、ですから、菊池さん、鍵を貸して下さい」
不安で、変な汗は飛び出して来たけど、大丈夫。
もし来ても、ちゃんと言う。
柾を恋愛感情では見れないって。
こ、婚約者のフリをしてくれる颯真さんだっているし。