この恋は、風邪みたいなものでして。
それから15分が、私には一年に感じる頃、店長が戻ってきた。
「華寺さん、貴方まだ残ってたの」
「あの、鍵を」
「そんなの居るスタッフに頼めば良かったのに。お疲れ様。明日は休み?」
早口で捲し立てる店長は、一番働いているはずなのに、疲労が見えない。
それどころか私を気遣ってくれている。
「明日は休みです。では、失礼します」
「――待って。今からもしかして颯真くんの所へ行くの?」
颯真君。
親しく呼ぶ店長に、思わず動揺してしまう。
店長に肯定だとばれると、大きく溜息を吐かれた。
「貴方、本当に颯真くんと婚約したの?」
「そうです。でも、色々と訳があって、まだ誰にも言ってないのでどうか内密に」
しどろもどろの私に、店長は目を細めて訝しげに見てくる。
「彼を全部受け止めてる? あの子、本当は腹黒いのも全部知ってるの?」
腹黒い?
彼が?
「や、頭は良い方ですよね。回転が速いと言いますか機転が効くと言いますか。でも私、腹黒いとは思いませんよ」
「そう。じゃあ断言する。腹黒いから。彼」