この恋は、風邪みたいなものでして。

「あの」
「ごめんね。わかばって仕事押し付けられても断れなさそうだなって心配で」
「ありがとうございます。でもうちのホテルは、そんな悪い人はいませんよ」
「……そっか。そうだよね」

ちょっと嬉しそうな顔で、頷いた。颯真さんもこのホテルの接客には満足しているのかもしれない。
エレベーターの前で、上のボタンを押す颯真さんにどきりとする。
上って、まさか最上階の部屋!?

「あの、あの」
「BARの奥に半個室作って貰ったんだ」
私が尋ねる前に、上機嫌にそう言う。
「え!」
「だから、ゆっくりしよう」

すごい。私が聞きたかった事を、分かってくれてるみたい。やはり従業員の私が部屋に入るには時間帯がまずい気がしてたから。

「仕事、お疲れ様」

優しく、小さな花をいっぱい咲かすように笑う颯真さんは、格好良すぎて、エレベーターの中では酸素が全然摂取できなかった。
息ができないぐらい甘い雰囲気の颯真さんの隣は――緊張しまくりだ。
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