この恋は、風邪みたいなものでして。

ソレは初耳だ。
私は、颯真さんとは昨日が初対面だと思っていた。

「私、でも颯真さんみたいなキラキラした人は、忘れたりしないと思います」
「あの時は、君はヤス君しか見えていなかったからじゃないかな」

その言葉に、一瞬思考が停止する。
チクチクした言葉を投げられた気がしたけれど、颯真さんの顔は優しいままだ。

「嘘。ちょっと意地悪だったか」

しゅんと謝ったのち、ビールを最後まで飲み干し、さっきの名前が長ったらしい高級なシャンパンを頼む。

「さっきの店長がね、調律師時代からのお得意様だからさ、君の事も知ってたり」
「あ、あ、あ――、そうなんですね。わ、びっくりした」

変な空気になったのは、私の緊張のせいだ。
私もグラスの中身を半分ほど飲んで落ち着かせる。

「面接で、ホテルの事を超愛してる子がいたって。店長が嬉しそうに話してたよ」
「あはは」
あの時は、あのグランドピアノのあるレストランで仕事がしたい一心だった気がする。
恥ずかしくて髪を触りながら俯くと、視界を影が遮る。

「そうそう。そんな風に前髪で顔隠してさ、――俺の事、全く見てなかったよね」

――え?

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