この恋は、風邪みたいなものでして。

顔を見上げると、びっくりするぐらい近くに颯真さんの顔がある。

颯真さんの顔は、夜景を背にしているため薄暗いからはっきり見えなくて。

悲しそうにも怒っている様にも見えた。

「もう一回、抱き締めてあげたら思い出すかな?」
「わ、わ」
「失礼します。此方、アンリオ・シャンパーニュです」

「ありがとう」

シャンパンが届くと同時に、颯真さんが離れる。
私も冷静に夜景を見るフリをしながらも、心臓は破裂しそうだった。
もしお店の人が来なかったら、抱き締められていた――?

そう思うと、なんだが胸がおかしい。

恋愛経験皆無の私には、颯真さんの気持ちが全く読みとれない。
王道の王子様みたいな顔してるのに。


「あ、乾杯してなかった?」
「違います。思い出すってどういう意味かなって」
ちょっと距離を取ろうと横へずれたら、足元に置いていたカバンを蹴ってしまう。

思いっきり蹴飛ばして飛び出したのは、颯真さんの著者『処方箋』だった。

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