この恋は、風邪みたいなものでして。
「うわー」
慌てて本を隠して恐る恐る振り返ると、颯真さんはソファの肘置きに両膝を置き、思いっきりカバンを見ている。
ばっちり見られている。
「あの、これ」
「もしかして、ソレ読んだことあったの?」
訝しげな目線で私とカバンを交互に見る。
明らかにお前は本なんて読んだこと無いだろって顔をしている。
「これは職場の先輩に薦められて。大ファンらしいです」
「へー」
「で、でも、私も自分で買い直します。で、読んでみます」
「期待してないよ」
シャンパンも上に持ちあげてスッと飲み干すと、途端に無口になった。
何を考えてるんだろう。
読んでなくてちょっと不機嫌になったのかな。
それとも、買いますって、社交辞令だと思われたのかな。
「そんな、突き放さないでくださいよ。私、こう見えても少女漫画は大好きなんですからね」
両手にサンドイッチを持って力説しても説得力がないけど。
「漫画とは違うよ」
「そうなんですか?」
「男視点だし。格好良い主人公じゃないよ」