この恋は、風邪みたいなものでして。
頑なに見て欲しくなさそうな感じがする。
「じゃあ何がおススメですか?」
「うーん。あんまり読んで欲しくないかなあ」
やっぱり。
表情からして苦笑いっていうか、困ってる気がする。
触れてはいけない話題だったのかもしれない。
話題を変えようときょろきょろ見渡して、時計を確認した。
もうすぐラストオーダーの時間だ。
「いつまでホテルに滞在されるんですか?」
「実は、締め切りが近いから終わるまで。一週間は居るかな」
一週間もホテルに居てくれるんだ。
「じゃあ、それまでは婚約者のフリをすればいいんですね」
「そうだね、できれば毎日こうやって会って駅までは送らせて欲しいかな」
「演技ですね。任せて下さい!」
胸を叩くと、颯真さんは手の甲を口に当てて震える。
「――や、だから気合入れなくて良いから」
私のヤル気はから回りにしかならないらしい。
「どうしよう。普通、普通……」
真っ赤な頬を押さえて考えても、既に颯真さんの隣でお酒を飲んでいるこの状態が普通ではない。