この恋は、風邪みたいなものでして。

頭がボーってなるのは、お酒のせい?

それとも――颯真さんの顔が優しいいつもの顔じゃないから?


急に引きよせていた腰の手が緩むと、もういつもの優しい顔だった。

今の一瞬の顔は気のせいだった?

混乱している私を、彼は笑顔でタクシーに乗せた。

「そんな顔したら本当に最上階の部屋に連れ込みたくなるから、お逃げなさい、お嬢さん」

「お嬢さんって、颯真さんっ」

「おやすみ」

タクシーは行き先を言ってもいないのに、颯真さんのその言葉で発進する。

手を振った彼を、私はどんな顔で見ていたっていうのだろうか。

真っ赤で情けなくて苛めたら泣いてしまうだろうと思ったのかな。

経験が無さ過ぎる私には、いつも妖しい色気を漂わせる彼は心臓に悪すぎる。


店長は腹黒いと言う。

でも私には優しくて、紳士で。

そして助けてくれた。

皆の言葉を信じるか、自分の心を信じるかなんて、今の私に考えられない。
ヤス君への気持ちを受け止めてくれた彼が、本当の彼だと私は思っている。

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