この恋は、風邪みたいなものでして。
レジに行こうとする私と、入口から入ってきた人物が丁度通路で出会ってしまった。
「柾……」
営業回りの途中なのか帰りなのか。
コートをひらめかせて自信たっぷりで歩いてくる柾に思わず踵を返す。
「お前、昨日遅かったってな」
「え」
一昨日告白したことなんて無かったように普通に話しかけられて拍子抜けしてしまう。
柾はレジの横の、今日発売の週刊誌と良く分からない難しい専門書を数点手にとって戻ってくると固まっている私を見下ろす。
「んだよ。小動物みたいにいちいち怯えんな」
「だって何で私が遅いって」
「ベランダで煙草吸ってたら、洗濯物干しに来たおばさんと顔を合わせたから。『柾君は早起きでお仕事なのにあの子は昨日、仕事が終わった後もふらふら遊んじゃってねー』だとよ」
「お母さんってば」
確かに昨日、帰ってすぐはまだ夢心地の放心状態だったかもしれないけど、ちゃんと仕事してるのに。
「颯真さんはちゃんと早めに切り上げてくれたしタクシーも呼んでくれたのに」
それどころかタクシー代まで払ってもらってた。
明日、ちゃんとお釣りお返ししないと。
「……俺もギリギリまで待ってたんだけど」