この恋は、風邪みたいなものでして。
ばらそうとしてしまった私に甘く笑いかけながら、心配げに間に入ってくれる。
違う。柾は悪くない。私が一方的に怖がったから招いた喧嘩だったんだ。
「たまたま本屋で見かけただけ。あと、――これ」
柾はカバンから単行本が入った本屋の紙袋を取り出すと、そのまま背中を向けた。
「一昨日に発売してたから買っておいただけ。家に置いてもおけねーしカバンにずっと入ってるのも嫌だったから早く渡したかっただけ」
「ごめっ ありがと! お金」
あわあわと財布を取り出そうしたら、柾は足早に手をひらひら振りながら家の方角へ向かっていく。
帰る方角は一緒なのに。
――しかもヤス君のことでいっぱいいっぱいで発売日さえ忘れていた本をわざわざ買ってくれたんだ。
それなのに、酷い発言ばかりなのはきっと私の方だ。
相手の気持ちを分かってなくてから回りばかりで、きっと柾を傷つけている。
「大丈夫だった?」
心配げに顔を覗かれて、私は青ざめる。
家の近くだからって、ほぼスッピンにマスクという酷い姿だった。
ファンデと眉毛を描いただけの女子力0の姿は、スーツ姿で隙のない颯真さんの隣にふさわしくなかった。
「だ、大丈夫です。大丈夫なので、その離れて下さいっ」
「なんで? 彼は隣を歩いていたのに」
明らかにむっと唇を尖らせるのが意外と子供っぽい。