この恋は、風邪みたいなものでして。

「柾は家が隣だし、小さいころから私の原形知ってるから良いんです!」
「原形?」
「す、すっぴん」

本で顔を隠しつつ、下を見てから気づいた。
適当なジーンズにパーカーという今にも逃げ出したい格好だ。

「ぷっ そんなに変わらないよ」
「変わりますっ! それに今日は昼過ぎまで眠ってたから顔だって浮腫んでるし」
「そう? 一昨日よりも健康的な顔色だと思うけど」
私の慌てる姿を楽しんでいる颯真さんは、ちょっと意地悪だと思う。
「それにまあすぐにすっぴんも見てやろうって思ってるから」
「へ?」
スッピンを見てやる?
「その分かってない表情も可愛い可愛い」
にっこり笑うと、その笑顔のまま今度は私が手に持っていた本を取り上げた。
「あっ」
「何を買ったのかな」
「駄目っ 見ないでっ」

背伸びしても、手を上にあげた颯真さんから本を取り上げられそうになかった。
簡単にガサガサと紙袋を開けて、彼は数秒固まるとその中身を紙袋の中へしまった。
「……俺の本を買ったの?」
「うー」

昨日の今日で、単純な奴だって思われてる。
でも、スーパーの途中で本当に偶然だから。
速攻で買ったわけではないと自分の中で言い訳を転がしても、彼には届かない気がする。

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