この恋は、風邪みたいなものでして。

「私、夕飯作らなきゃなんですっ」
「それ、お邪魔していい?」
「実家です! 超実家です!」

超実家の意味が分からないけど、親が居るのだと匂わせる。
だけど、颯真さんの顔が意地悪そうに歪むのを私は見逃さなかった。

「へえ、そう。じゃあ婚約者としてお邪魔しようかな。一緒に鍋でも食べながら」
「なんでネギを見ただけで鍋って分かったんですか。駄目です。駄目ですから」

あわあわとネギを見たり本を奪おうとしたり少女漫画を見ようとする彼から逃げて右往左往しながらも、私の動機は胸が痛くなりそうなほど早い。

見た目とは正反対で、颯真さんの中身がすっごく意地悪で困惑してしまう。

「あはは。すっごい困った顔も可愛いよね」
「意地悪!」

ぎゃあぎゃあと私がわめいても、そこは軽く流しちゃうんだからズルイ。

「律さん」
「あ、やっば」
本屋からスーツ姿の男の人と店長さんが出てきた。
これだけ店の前で騒げば見つかってしまうのもしょうがないか。

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