この恋は、風邪みたいなものでして。
男の人は颯真さんに早く来るように手招きしている。
「残念。もう少し一緒に居たかったのに」
「良いから、行って下さい」
これ以上邪魔したら本当に申し訳ない。
彼もにこやかに手を上げて、すぐに行くと合図している。
「で、さあ」
私も少しずつ距離をとっていたのに、彼は本屋の方へ手を振りながら此方を向かずに言う。
「彼と何を話してたの?」
「――っ」
上昇していた体温が一気に冷めていく。
聞かれてはいなかったのだけは胸を撫で下ろてしまう自分が嫌だった。
「って、本当に婚約者っぽくない?」
冗談だよって彼は誤魔化したけど、私の方は振り返らなかった。
怒っている?
助けて貰ったくせに、また柾と会っていた私に怒っているのかな。
そう思ったのに、聞けないまま彼が遠ざかって行った。
呆然としている私に、彼が本屋に入って行く時振り返ったけれど、その時はいつもの笑顔だった。
でも、何だか――ちょっとだけ怖かった。
優しい彼を怖いと感じたのに、何故か胸はまたドキドキと高鳴り出していた。