この恋は、風邪みたいなものでして。


『傷つけていたのは柾じゃなくて私なの』
そう正直に言うべきだったのに、私は逃げた。

テーブルにスーパーの袋から取り出そうともせず置くと、リビングのソファに突っ伏した。

正直に柾には言ってもいいって思ったのに、彼を見たら言えなかった。

もしかしたら――。

『じゃあ婚約者のふり、しなくていいんだね?』
そう言われてしまうかもって思うと怖くて言えなかった。

言えない。

私が彼に優しくして貰えているのは、茜さんと柾を騙すためだから。

そう思うと、ズキズキと胸が痛んだ。

痛い。
痛い。

私は、颯真さんに優しくされるこの特別な位置の居心地の良さに甘えて痛いんだと思う。

自分の打算的な考えに自己嫌悪で気分が悪くなった。

こんな自分勝手な考えで、今の関係を続けようとしていると彼にばれたら絶対に幼稚だと呆れてしまう。
ソファで自分の、こんなドロドロした考えに嫌気がして、暫く動くことが出来なかった。

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