この恋は、風邪みたいなものでして。
その夜は、颯真さんから連絡は来なかった。
それもなんだか私の不安に拍車がかかる。
昨日の私の言動は、きっと不自然だったんだ。
そんな私の内側を見透かすように、出勤したその日、また猫の声を聞いた。
私をヤス君が叱ってくれているのかもしれない。
「どうしたのー。元気ないね」
「おはようございます。あはは、ちょっと自己嫌悪中です」
もうすぐ、朝のランチがスタートする。
並べられたビュッフェとお皿等の確認を二人一組でするが私のパートナーは菊池さんだった。
朝は7時から9時までが泊まりに来られている方々のビュッフェの時間だけど、一番多い8時以降は忙しいので今が一番ゆっくりこうして話せる。
「自己嫌悪?」
「……素敵な人の前で自分を良く見せたくて、なんだか打算的な行動をしてしまったというか」
完璧な人だから益々自分がちっぽけに見えて嫌になってしまう。
すると、ぴんと来たのか菊池さんが人差し指を立てた。
「それって、もしかして好きな人ができたの?」
「うわっ 好きだなんてっ とんでもない。憧れのような、そんな感じです」
言い訳を慣れみたけれど『好きな人』と言われ、心臓が飛び跳ねた。
確かに、あんな格好良くて性格も良くて、非の打ちどころのない人ならば、好きにならない人はいないかもしれない。