この恋は、風邪みたいなものでして。

「わ、私に何かできることありますか!」

「ない。ないし、別に笹谷君をやっぱ好きになったって言われても私には止めてって言う立場でもない。でも、憧れの人と上手くいけるように祈ってるよ」

「上手く……。駄目です。無理です」

「何で?」

「だって微笑まれただけで、がーって体温上がっちゃうし、からかわれたら何を話して良いかわからないし、それに」

それに。
私と彼は、遠ざけたい人の前だけ婚約者のふりをする。
期限は――決まっていないけど、きっと茜さんが諦めたら終わってしまう。

柾が諦めていないって私が嘘をつけばきっとあの人は優しいから、ふりを続けてくれるけど。

「どうしたの? 真っ赤だったのに急に顔色真っ青になって」
「や、これ以上迷惑をかけるわけにはいかないから、好きになんてなれないです」
助けただけの親切な彼に、恋心なんて抱いたらきっと困惑させてしまう。
言えない。
彼のことを考えたら、私はブレーキをかけなきゃいけない。

「二人とも」

時間に鳴ったので入り口を見て待機するようにと、店長に目で合図された。

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