この恋は、風邪みたいなものでして。


この足?

恐る恐る自分の足元へ視線を向けると、誰かの足が見えた。
男物の革靴だ。

「人の車の下で何をしてるの?」
「うわあ。その怪しいものでは!」

言い訳しようにも、ヒールを脱いで車の下に潜った私は怪しい者以外の何者でもなかった。

それにこの声は、落ち着いて聞けば颯真さんだって分かる。

でもこの車、颯真さんの車だったんだ。
社員の駐車場に不似合いだとは思っていたけど、よりによって私は彼の車の下に。


「まあ詳しくは出てから聞くよ。出ておいで」
「……で、出たくないです」

「足を引っ張っていい?」

「きゃー」

諦めて出ると、また猫の声がした。

「なるほど。そんな事だと思ったよ」

私の頭の砂を落としながら、彼が笑っている。
自分の車の下に入っていた怪しい私なんかに笑っている。
なんて懐が大きい人なんだろう。


「俺の車の下に逃げ込んだ?」
「分からないけど、鳴き声が此処からしてるんです」

「ふうん。四日前から此処に置きっぱなしだから入っちゃったかな?」

ボンネットを開けるか颯真さんから少し離れて、スカートや服の砂や埃を掃うと紙を整えて隣へ戻った。

すると、彼の、中を覗き込んだ顔が破綻するのが分かった。

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