この恋は、風邪みたいなものでして。


彼の隣で、猫を膝の上に置いて擦りながら、酷く胸が騒ぐ。

子猫のことも心配なのに、どうしてか私、何か大切な事を忘れている様な気がして。


ホテルから車で15分ぐらい行ったところでコンビニの隣の二階建の病院の前で止まると、彼が呟く。

「え、あー、ここかあ」

「知ってるんですか?」

「や、昔過ぎて忘れてた。なるほど、――車止めてくるから先に入っててくれる?」
一瞬だけ焦った顔を見せていたけれど、すぐにいつもの颯真さんの優しい顔に戻った。

私はそのまま降りて、夜間用のブザーを押す。
ヤス君のかかりつけ医で、あの日も此処を押して家族でこのドアを通ったから覚えている。

煉瓦作りのレトロな外見だけど、ここら辺では一番最新の医療器具を使っていると思う。
医師はもう何十年もここで動物を見ている医師だし、老衰で亡くなったヤス君を『がんばったね。おやすみ』と優しく目を閉じてくれた。

思い出すと、また声をあげて泣いてしまいそうだ。
あの時、私は酷く取り乱して泣いていたから、医師にちゃんと御礼を言えてなかったのも会うのが億劫に感じる要因の一つだ。

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