この恋は、風邪みたいなものでして。
『誕生日、おめでとう。この子を大切にしてくれる?』
発表会で、演奏を頑張ったら猫を飼いたいと親にお願いしていた。
そのクリーム色で黒のブチがある可愛い猫は私の腕の中へするりと入って来ると頬を舐めた。
『髪、ぐちゃぐちゃだね』
『……』
そうだ。
ピアノを演奏しなきゃこの子は飼えない。
でもこんな髪じゃ、出たくない。
『せっかく可愛いのにね。おいで。俺が結んであげるよ』
『え』
彼は猫からリボンを解くと、中へ入ってきた。
そしてそのリボンで私の髪をポニーテールにしてくれたんだ。
『できたよ。ほら、行っておいで』
『あ、ありがとう! ありがとう! お兄さん、凄い!』
飛び跳ねる私が、テーブルの天井で頭を打つと、彼は猫を奪って優しく笑った。
『一緒に、弾こうか?』
猫の手をふりふり振って私の背中を押してくれた。
あの時に連弾をしてくれて、最悪の誕生日を一瞬で最高な思い出の誕生日にしてくれた。