この恋は、風邪みたいなものでして。


「急患ですか? 容体は?」

ブザーの向こうで、聞きなれた看護師さんの声がして涙が込み上げてきた。
でも今はヤス君のことではなく、この子が優先だ。

「すいません。弱っている子猫を拾ったのでお願いします」

「分りました。今、ゴールデンレトリバーの緊急帝王切開の手術ですので人手が足らずお時間頂いてしまうかもしれません」

ガチャンとドアの鍵が開いて、入って来るよう指示をされた。
小さな猫を必死で抱きしめながら、懸命に生きたいと鳴いてい子猫を助けたいと走った。


「華寺さん」
看護士さんたちはすぐに私だと気づいてくれたけれど、挨拶もそこそこに急患の方へ走っていく。

今日は3匹も既に運ばれてきているらしい。

子猫は、適切な処置と診察をしてもらい、栄養失調だと診断された。


「貴方が飼うの? 予防接種とか色々手続きあるけどどうする?」

看護士さんが子猫に点滴を付けながら、何気なく言う。
でも、私はただ後先考えず子猫を助けたけれど、飼うという言葉に思わず躊躇してしまう。
ヤス君のような、大切な時間を過ごした動物とのお別れを考えると勇気が出ない。
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