この恋は、風邪みたいなものでして。
「ヤス君とお別れした私みたいに、颯真さんにも辛い思いをさせたくない」
子猫を助けたのは、私の完全な思いあがりの偽善だとしても、颯真さんに迷惑をかけたくなかったから、だから伝えたい。
「君が大切な人を亡くしたのは受け止めたけれど、君が泣いているのは死ぬのが辛いからだけ?」
また髪を撫でられながら彼は私の涙を指で掬いあげる。
「大切な思い出が一緒に消えてしまうのが不安だから泣くの? 隣にもう居てくれないから? 後ろ向きな考えばかりで、今きっとヤス君はキミを見て苛々してると思うけど」
「そ、うなんですか」
こんなにメソメソとイイ大人が泣いてばかりでは、ヤス君は安心して虹の橋を渡れないのかもしれない。
「俺ね、小さい頃、猫をお迎えしようとしたことがあって、毎日毎日、猫とベットで一緒に眠ることを夢見てわくわくしてた」
「颯真さんも。でもお迎えしなかったんですか?」
「ん。母親が猫アレルギーだったんだ。猫を抱いた瞬間、くしゃみや蕁麻疹。最終的には呼吸器官が腫れ上がって救急車騒ぎだ。子供心にあの姿を見てまで飼いたいって言えなかったんだが」