この恋は、風邪みたいなものでして。
別れるのが大変だったから私を婚約者にしたてたのなら、私はそう言って貰えたなら納得できたけど、なんで隠すんだろう。
「颯真さん、鍵ありがとうございました」
差し出すと、ポケットに入れてってねだられた。
年上の人のお願いってなんだか可愛い。
「わかば、明日も早番?」
「はい。今日と同じです」
「じゃあ、病院のお見舞いに一緒に行こう」
「……はい!」
明日も会える。
そう思うと、今の嫌な気持ちが吹き飛ぶ。
「あの、これ、落ちてました!」
手を伸ばして渡すと、颯真さんは表情も変えなかった。
「誰のだろ。ありがとう」
気にも止めていない。
もしかして私の勘違いだったのかもしれない。
しかめっ面で子猫を見ていたのか、子猫が私を見て、小さく鳴いた。
その顔は可愛くないぞと、言ってくれているみたいだ。
小さくて可愛い子猫を触りながら、ざわざわした気持ちを落ち着かせる。
今はこの子と会えたことを喜ぶべきなんだ。
牛柄のこの子の名前を何にしようか悩む。
「帰ろうか」
「はい。って、あ!」
ピアスが気になってうっかり親への連絡を忘れていた私は、慌ててメールを打った。