この恋は、風邪みたいなものでして。


すっかり遅くなってしまったので、颯真さんにご飯に誘われたけど丁寧にお断りして、送って貰った。
電車はまだあったのに、車で送って貰えて二人の時間が長くなったのは嬉しい。

車の中は颯真さんの香水が仄かに香っていて、黒で纏められたカバーが格好良すぎて緊張する。さっきから相槌しか打ててない気がする。

「わかばは一人暮らししないの?」

「あは。うち厳しくて。遅番とか21時過ぎるから一人暮らし反対されちゃって」
「そうなんだ。まあ俺と住めばその問題全部解決しちゃうけどね」
「え」
「一緒に住む? ホテルの最上階」
一瞬、心臓が口から出ると思った。
そうか。ホテルのスイートルームに住めば遅刻なんてしないよね。
ただの彼の冗談なのに、深く考えてしまいそうになった自分が恥ずかしい。
「あ、此処です。こっち」

家の前で止めてもらおうとしたら、お母さんが玄関で誰かと話していた。
振り返ったのは、部屋着姿の柾だ。

「うきゃっ」

もしかして柾のお母さんがまた何か作りすぎて持って来てくれたのかもしれない。
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