この恋は、風邪みたいなものでして。

「お帰りなさい、遅かったわね」
のんびりと声をかけるお母さんとは反対に、睨んでくる柾が怖い。
真っ直ぐにこっちに向かってくるから慌てて車から降りたけど、柾は私ではなく、颯真さんに一直線だった。

「丁度、お前が本当に婚約者かおばさんに聞こうとしていた所だった」

「へえ。短気な癖にねちっこいね、君」

「なんだと」

「ふっ」

颯真さんは柾を適当にあしらうと、車から降りてお母さんの方へ歩いて行く。

はっきり言って、スーツ姿で一ミリの隙もない彼が笑顔で向かって来て、ドキドキしないわけないよね。

私のお母さんもすっかり慌てふためいてオロオロしていた。
そんな母に、落ちついた声で彼は言う。

「お久しぶりです」

――お久しぶり?

「御手洗 颯真です。わかばさんは本当に綺麗になりましたね」

「颯真くん? ええっ 貴方、颯真くんなの?」

「お母さん、颯真さん知ってるの?」

私も柾を警戒しつつ、彼の元へ駆け寄ると母が口を大きく開けて私と颯真さんを交互に見る。


「知ってるのって、あんた私を馬鹿にしてるの? 彼を知らないまま働いてるわけないわよね?」
何故か呑気な私を母に苛立ってさえいる。
どういうこと?
なんで彼と母が知りあいなの?



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