この恋は、風邪みたいなものでして。
「ふふ。わかばさんにはまだ俺の事は秘密にしていてください」
にっこりと彼が笑うと、母は分りやすいぐらい真っ赤になった。
間違いなく私と母は親子だ。
「でも、うちの子が何か失礼を」
「いいえ。俺にとってわかばさんは、今も昔も大切な女性です」
颯真さんは、私の腰を引き寄せると頭を優しく撫でてくれた。
親の前で恥ずかしすぎて真っ赤になって身体が硬直して上手く動かない。
颯真さんは、私の親と知り合いだったなんて。
一体本当に彼は何者なの?
「俺は焦っていません。ヤス君が彼女の心の中で一番大きな存在だったのならば、俺は待ちます。何年経っても待ちます」
――何年たっても待ちます。
そんな言葉、口から出まかせだって分ってるのに。
この場を上手く逃れるための詭弁だって分っているのに。
私の隣に、本当に恋人の颯真さんがいてくれているようで嬉しくなった。
「まあ! 素敵な青年に成長してこんな子にそこまで言ってくれるなんて。颯真君、夕飯は食べた? 倉庫に車止めて食べていってちょうだい」
「いえ。まだ仕事が残っているので帰ります」
「あら。忙しいの? 残念ね」
「お母さんっ」