この恋は、風邪みたいなものでして。
興奮している母が、今にも颯真さんの手を取って家に入れてしまいそうだったので慌てて私が先に手を取った。
「ごめんなさい。お仕事残ってたんですね。私が手間を取らせてしまって」
「大丈夫。そこがわかばの良いところだから」
ポンポンと頭を叩くと、車の方へ踵を返して歩き出す。
「此処で良いよ。また明日、ね」
「颯真さんっ」
ちゃんと御礼も言わせて貰えないまま、彼は本当に車に乗り込むと母にお辞儀し、行ってしまった。
塵一つ残さないスマートな去り方だった。
「お母さん、颯真さんとどんな知りあいなの?」
「あら、私の方が知りたいわ。どうして最近知り合ったみたいな風なの、貴方」
「私、あんな格好良い人、知り合いに居なかったよ」
「本当かしら」
母が口に手を当てて何かを隠すように笑う。
母は見て直ぐに、いいや、名前を聞いて思い出していた。
私と颯真さんは昔、やっぱりどこかで会ったことがあったのかな。
そう言えば、髪を撫でられた時、既視感があった。
「ってか、なんでこんなにお前汚れてんの?」