自殺 ~飛べないカラス~
「──さて、ここで問題」


 不意に、目の前の人物は悪意のない純粋な笑みをこちらに向けた。


「第1問。目の前に、翼のない“それ”がいます。──“それ”とは、“鳥”でしょうか?」

「……は?」


 思わず声に出していた。

 今までの……少なくとも、目の前の人物に出会う前の私なら、「鳥だ、当たり前」と胸を張って答えていたのかもしれない。

 けれど、目の前の人物のさっきまでの独り言のことを考えると、“それ”は“鳥”では……無い?


「第2問。目の前の地面の上に、“それ”が横たわっています。泳いでいない“それ”は“魚”でしょうか?」

「え……えっ?」

「第3問。目の前であなたの身体がバラバラになり、その中の身体の一部が手渡されました。“それ”は“あなた”でしょうか?」

「え……」

「第4問。飛んでいたカラスが突然、翼を失って地に堕ちた時……“それ”は“カラス”と言えるのでしょうか?言っていいのでしょうか?」

「……」

「第5問、」

「――もう、やめてよ!!!」


 永遠に続くんじゃないかと錯覚しそうな一方的な相手の話を、自ら大声を出すことで遮断する。

 私に答えさせるつもりのない質問を、いつまで聞いていればいいのか。

 分からないからこそ不安で、だから、切り開こうと大声を出した。それだけのことだ。
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