自殺 ~飛べないカラス~
「だって、そうでしょう?

 あなたが死んだって何も変わらない。世界は何も変わらない。代わり映えのない毎日が続いていく。世界から“あなた”という存在がいなくなるだけ。それでも飽きもせず、月は沈んで朝日は昇るんだよ。

 同じ地球上に住んでいながら、あなたが産まれて生きて死んだことに気付かないまま一生を終える人もいるんだから、あなたの生死は世界になんの影響もないんだ。

 だから、――安心して。

 死にたいのなら、安心して死ねばいい。


 ああ、さっきも言ったけれど、僕はあなたに「生きろ」と説教じみたことを言いに来たわけじゃない。

 これが「生きろ」と説教じみたことに聞こえるのなら、うん、勝手にそう思えばいいよ。僕は肯定も否定もしない、あなたの好きにしたらいい。

 自分の人生の選択は、選べる限り、自分で選べばいい。だって人生(それ)は、何者でもないあなたのモノなのだから。

 だから、あなたが今、僕の目の前で飛び降りようが……僕は何も言わないよ。たんたんと警察たちに連絡するだけだ。

 ……ただ、」


 そこでいったん言葉を切った目の前の人物は、悲しそうな、苦しそうな……切なそうな弱々しい微笑みを、私に向かって静かに浮かべた。


「――ただ、あなたが僕の目の前で終わりを遂げたことに対して、悲しくは……思うけどね」
< 9 / 13 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop