オークション
「どうして落札しなかったの?」


藤吉さんが聞く。


「隣にね、先天性の知的障害者がいたんだよね……。


その子の母親が必死に金額を打ち込んでて、それを見るとあたしが落札するための商品じゃないって、思っちゃって……」


「そうだったんだ……」


あたしは落札した少年がたこ焼き屋にいたことを思い出していた。


彼に落札させるために自分は諦める。


それはいつもの委員長らしい行動で、少しホッとした。


「天才の脳味噌を落札してたら、何をするつもりだったの?」


藤吉さんが興味を持ったようにそう聞いて来た。


「とりあえず、東大合格。それから海外に行って世界中の人の役に立つ仕事をしたいと思ってた。


まだ漠然とした夢だけど、クラスメートを束ねている内に自分は社会に出てもこういう立場の人間でいたいなって、思えてきてるんだ」


委員長はそう言い、ニコッと笑った。


いつも中立的な立場からみんなの意見をまとめている委員長。


成績も優秀で、先生たちからの信用も厚い。
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