オークション
☆☆☆

その日の午後。


あたしは1人で河川敷を走っていた。


有名になったあとはなるべくサングラスをかけ、帽子を被って走るようにしている。


でないと周りから声をかけられて、練習できなくなってしまうからだ。


10キロほど走った地点であたしは時間を確認した。


どのくらいのペースで走れば1位をとれるか考えているのだ。


今度の大会では全力で走る必要はない。


少し余裕を見て、無理のないように走るつもりだった。


マンマルマラソンの時の半分ほどのペースで十分のようだ。


「今日の練習はもういいや」


そう呟き、足を止める。


2週間の練習で銀メダリストに勝てると言う事は、県マラソンでは練習する必要だってないかもしれない。


そう思い、家への道を歩き始める。


あたしは今日本一、いや世界一早い足を持っているんだ。


凡人たちが練習してもあたしには到底かなわない。


あたしはマンマルマラソンで2位と3位の選手が悔し涙を流していたのを目撃していた。
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