オークション
☆☆☆

オークション会場は今日も満席だった。


これだけの人たちが才能を求めてここへ来ている。


そして見事落札できればバラ色の人生が待っているのだ。


やり方は少し強引だし、ここでは法律が通用しないという恐ろしい世界だ。


でも、世界的に通用する才能を購入できるのなら、それは当然のリスクだと思った。


モニターをジッと見つめていると、不意に隣の席に座っていた男性から声をかけられた。


それは見たこともない中年の男性で、まるで浮浪者のような格好をしている。


心なしか少し悪臭もしているし、あたしは身をずらして男性から離れた。


「なんですか?」


しかし、話しかけられたものをあからさまに無視することもできなくて、あたしはそう聞いた。


「君、マラソン選手の北川さんだよね?」


「そうですけど」


ここで誤魔化してもすぐにばれると思い、あたしは素直にそう答えた。


「やっぱり! 最近ずっとテレビに出てるからすぐわかったよ! そうか、君もオークションの客だったんだね!」
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