オークション
途端に大きな声になってそう言う男性に、あたしは顔をしかめた。


オークションを知らない人間には口外してはいけないと言う決まりはあるものの、ここで大声でそんな話をされるのも癪に障った。


「やっぱり、ここで才能を買ったの? 君の名前なんて1度も見たことがなかったから、もしかしたらオークションの参加者じゃないかって、実は思ってたんだ!」


男性がそんな話をするものだから、周囲からの視線を感じ始めてあたしは身を小さくした。


せっかく久々のオークションに来たのに、舌打ちしたい気分だ。


「あれ? なんか機嫌悪い?


大丈夫だよ、ここにいる奴ら全員他人の才能を買って成功しようとしてるゲスばっかりだから!!」


そう言い、下品な笑い声を上げる男性。


お前だってそのゲスの1人だろうが。


そう言ってやりたいが、あたしはモニターに視線を向けて聞こえないふりをした。


「いやぁ、今日はね、僕頑張るつもりなんだよ!


ずっと彫刻家を目指してやって来たんだけど、全然認めてもらえなくてさ、アルバイト生活を続けてるんだ。


でも、今日でそれも終わりにする! 才能を買って、華々しいデビューを飾るんだ!!」


途中から男性は自分の世界に入ってしまったようで、1人で興奮状態になってしまった。


こんな人を相手にしていても仕方がない。


ジッとモニターを見ているとようやくモンピーが現れて、男性は静かになった。


「みなさまおまたせしました! 司会を務めさせていただきます、モンピーです!」
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