オークション
クラスメートの輝夜に似ている。


輝夜が大人になったらきっとこんな感じなんじゃないだろうか。


そう思わせる美青年だったのだ。


年齢は20代前半。


まだまだこれから才能も伸びていくのに、どうしてその腕をオークションに出す事にしたのだろう。


そう思っていると、中田優志さんは苦しい心境を語り始めた。


「俺の両親は、俺が10歳の頃離婚しました。それから俺は母親に引き取られ貧しいながらも幸せな生活を続けていました。


両親の離婚をキッカケにモノづくりに没頭するようになった俺は、15歳で彫刻に出会い、そして目指し始めました」


自分の力だけでは乗り越えられない事が起こった時、人は逃げ道を探す。


彼にとって彫刻こそが逃げ道だったようだ。


「彫刻をしている時は嫌なことをすべて忘れる事ができる。


気が付けばいろんな人から褒めてもらえるようになり、そしてそれが仕事になっていました。


でも……俺が彫刻に没頭している間に、母親はガンを発症していたんです」


その言葉にあたしは一瞬息を飲んだ。


周囲も、苦しそうな顔を浮かべている人が目立つ。


「ここまで俺を育ててくれて、彫刻家で成功した後はちゃんと恩返しをしなきゃいけないのに……、俺は母親の変化にも気がつく事はできませんでした。


作業場で寝起きする日が増えていって、顔を合わす時間が減っていたからです。


気が付けば、母親は末期がんでした。ついこの前、余命3か月だと言われたばかりです。俺が、彫刻にのぼせている間に、母親は……!!」


そう言い、言葉を詰まらせて嗚咽した。
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