オークション
前のように痛みはないが、肉を切り落とされているような感覚はしっかりとあった。


その感触が気持ち悪いのか、中田優志さんは時々うめき声をあげ体調不良を何度も訴えた。


気絶させてもらえないのが、このオークションの趣味の悪いところだ。


意識が完全にない状態なら中田優志さんがこんなに苦しむこともなかったのに。


白衣を着た男性が中田優志さんの右腕を高々と持ち上げる。


それを見た本人が絶叫し、会場内からは歓声と悲鳴が同時に聞こえて来た。


この手術見たさにオークション会場に足を運んでいる人もたくさんいるのかもしれない。


歓声が聞こえてきて、あたしはそう思った。


普段では目にすることのできない人間の切断された部位を見る事が出来る。


それは一部のマニアの間では人気になりそうなイベントだった。


「ほら、見てごらん」


白衣を着た男にそう言われて目だけを移動させると、その手には切断されたあたしの腕があった。


思っていたよりもずっと細くてびっくりする。


「それ、もういらないから」


あたしはそう言い、ほほ笑んだ。


その反応が予想外だったのか、男性は驚いたように目を見開いた。


「あの人の、たくましい腕がほしい」


そう言うと、男性は諦めたように肩をすくめて作業へと戻ったのだった。
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