オークション
とけたアイスが指にたれた。


赤信号は青に変わっている。


けれど、あたしはエレナをジッと見つめて動けなかった。


「どうしたの? 行くよ」


先に歩きだすエレナに慌てて付いていくあたし。


アイスはどんどん溶けはじめているのに、口をつけることも忘れている。


「どういう意味?」


横断歩道を渡り切り、やっとそう聞くことができた。


「アイス、溶けてるよ?」


エレナに言われてあたしはようやく手がベトベトになっていることに気が付いた。


溶けたアイスを食べきって、あたしはまたエレナを見た。


エレナはあたしから視線を外し、そして言った。


「彫刻の才能があるなんて、知らなかった」


言葉がグッと喉にひっかかる感じがした。


きっと、輝夜からその事も聞いていたのだろう。


「言ってなかったから」


あたしはできるだけ表情を崩さずにそう答えた。


エレナはオークションの事を知っている。


エレナとオークションの話をすることは、禁じられていない。


「買ったの?」


その言葉があたしの胸に刃となって突き刺さった。
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