オークション
でもそうなれば藤吉さんもドッキリをしかけたスタッフの仲間と言う事になる。


なんであんな事をしたのか気になって、あたしはそっと藤吉さんの後ろに回った。


その両手を確認してハッと息を飲む。


藤吉さんの両手首に縫合された後がしっかりと残っていたのだ。


その傷はまだ生生しく、手首から先だけが異様に年老いている。


あたしは思わず後ずさりをして、その時後ろにあった椅子を蹴とばしてしまった。


ガンッ!


と、大きな音を立てて椅子が倒れる。


藤吉さんが驚いたように振り向いた。


「あ……ごめん……」


藤吉さんの大きな目に見つめられて、たじろく。


「今集中してるから、気を付けて」


藤吉さんはそう言うと、再び絵に向き直った。


言う事はそれだけ……?


そう思ったが、藤吉さんはあたしが昨日オークションの会場にいたことは知らないはずだと思い出した。


あたしはモニター越しに藤吉さんを見ただけだから。


仕方なくあたしは藤吉さんの絵に視線を向けた。
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