オークション
「僕はその金を何も考えずに使ってみたいんです。新薬の開発や技術の向上などではなく、自分の欲しいものをほしいままに手に入れたい。


そのためにはこの脳味噌は邪魔になりました。今会場に来ている皆様のように何も考えずにバカのように暮らしていきたい。


だから、僕は自分の脳味噌をオークションに出す事に決めたんです」


戸田啓太は途中から会場内のすべての人間を見下すような目で見て、そう言った。


しかし会場内から批判の声は出てこない。


むしろ拍手の方が大きかった。


戸田啓太さんのIQがあればどんな大学にも入れるし、どんな会社でも通用する人間になれる。


その思いが、戸田啓太さんの発言をかき消しているようだ。


自分が日本一のIQになれば、人々を見下す気持ちだって理解できる。


みんなそう感じて、そして《戸田啓太の脳味噌》を欲しがっている。


あたしも……その1人だった。


ここに来るまででどんなものが出て来るか知らなかったけれど、今日のオークションは大当たりだ。


人生を丸ごと変える事ができる商品だ。


あたしは知らず知らずの内に手を握りしめていた。


自分が興奮しているのがよくわかる。


ここにいる全員があたしのライバルだ。


「さて、それではまいりましょう! オークション価格は1万円から!!」


モンピーの声と同時に画面上には次々と数字が表れる。
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