神恋~水神様に恋をした~
後ろから、白が歩いてきた。
「帰るぞ、雪。」
(目が、怒ってらっしゃる…。)
そう一言だけ口にすると、スタスタと一人で行ってしまう。
「あーらら、こりゃ怒られるね。」
――『狐たん!早く早く!こっち!』
あぁ、まただ。またあの記憶。
「今度来るときは、白の匂い薄めてから来てね?」
黒狐はニヤリと笑い姿を消してしまった。
……黒狐は、本当に悪い妖怪なのかな。
一人で歩いて行ってしまう白を私は追いかけた。
◇◇◇
「えっと、あの、怒ってる?」
何も言わずに、ただ歩く彼は相当怒ってるに違いない。
だ、だって目が怒ってるし。怖いし。
そして、急に歩みを止めた白に私の肩はびくりとした。
「黒狐は、かなり邪悪だが悪い奴ではない。
だが、所詮は闇に存在する狐。
人や妖怪を騙して食すのがやり方だ。気を許すな。」
え?それだけ?私の事怒ってないの?
だって、あの時けっこう怖かったし。
それに黒狐だって怒られるねって。
「お、怒ってないの?」
「わざわざ言わせたいか?」
「いえっ…!!」
「仕置きは帰ってからだ。」
え、お仕置きって…。水湖様、白はとんでもなく怖い人ですね。
……怒ってるはずなのに、こうして私の歩幅に合わせて歩いてくれるなんて、やっぱり優しいんだ。