神恋~水神様に恋をした~
姿を現したのは、白くて大きな蛇だった。
その大蛇と呼ばれる妖怪は人に変形すると、私の首をつかんだ。
息が出来ないようにする事やり方は、まさしく蛇だ。
「くっ……私を、食べる気?」
「そうだと言ったらどうする?」
大きく不気味な大蛇の口は、真っ赤で耳まで裂けている。
身体まで蛇らしいんだな。
「甘い、美味そうな匂いだ。」
――『やっつけろ!』
まただ、妖怪の記憶を覗いてしまった。
だけど彼は記憶を覗かれている事に気付いている様子はなかった。
そんな事に意識を向けている暇はないとでも言うかのように締める首の力を強める。
――『蛇何て、気持ち悪いわ。』
あぁ、この人は、人間が好きだったんだ。
信じていた大好きな人間たちは、大蛇を嫌っていたのか。
(苦しい…、)
――『さっさと失せろよ蛇!!』
何だか背中に激痛が走る。
この痛みは、大蛇が味わった傷の痛み。
子供たちに石を投げられた。木の棒でつつかれては、たまにそれで刺されて遊ばれる。
――『仲良くなりたかっただけだった。』
この声は、大蛇の心の声?
泣いている、痛いと苦しいと悲しいと。
人間たちが大好きだからこそ、人間と仲良くなりたかった。
苦しく、意識が朦朧(もうろう)とするなかで見つけたのは大蛇の背中の傷。
背中だけだった傷は、放っておく内に悪化し薬では治らない程に。
私を食べて、傷を癒そうとしてる?
「…っ…貴方は人間が好き…、」
その一言で、バッと首を締める手を離した大蛇は私を睨んだ。
「貴方は人間と仲良くなりたかった。」
涙が流れる。私は、この妖怪に同情している。
仲良くなりかっただけなのに、悪い事など何もしてないのに。
蛇と言うだけで、人間からはひどく嫌われてしまう。
それがどれだけ悲しくて苦しいか。
人間は知らないんだろうな。
そう思うと、大蛇はとても可哀想な人だ。
蛇と言う姿でしか、人間に見てもらえない。
「貴方は、嫌われて何かいない。」
そっと抱き締めると、大蛇は静かに涙を流した。