2択に1つの恋愛
私は部屋に戻った。
「ただいま~♪」
「あれ・・・なんか上機嫌?」
「♪残酷な天使のメアリー♪」
加奈の歌は終わったらしくて、春が2曲目を歌っているらしかった。
「うん。ちょっと面白い人にあっちゃった」
「男?」
「うん」
すると、急に春が歌うのを中断してぐるっとこちらを振り向いた。
「・・・知り合い?」
「別に? 初めて見る人だと思うけど・・・」
「初めて会う男と話すのか!?」
「フレンドリーだったの。春の持ってきたアセロラ&ストロベリーが好きみたいだよ」
「お、俺のせいか・・・」
春ががっくりした様子で歌を止める。
加奈は黙って聞いていたけれど、ゆっくりと口を開いた。
「美空が初めて会う男性と話すなんて。その人かっこよかったの?」
「そりゃもう! アイドルみたいに顔立ちがよくて・・・」
「がーん」
「背もすごく高かったな~」
「ががーん」
春の顔色が真っ青だった。
加奈はクスッと笑うと、春の方を意味ありげに見ながらこう言った。
「ありゃまー。イケメンなら美空も連れていかれちゃうかもね~(笑)」
「ひ、人は見た目じゃわからないんだぞ! まずはだな、ちゃんと話してから・・・」
「メルアド交換させていただきました~」
「う”っ・・・」
「ありゃま。こりゃ本当に危険かも」
加奈は改めて私の方を見ると、笑みを消して少し真面目に言ってきた。
「でもね、美空。その人がどんなに良くても、人間である限りは必ずどこかに欠点がある。欠点が見えてくるくらいには仲良くならないと、その人の事を分かってる風に思っちゃだめだからね」
「欠点を知る?」
そりゃ、誰だって悪いところはあるでしょ・・・
例えば私だったら、頭はそんなに良くないし、足も長くない。
加奈みたいに美人じゃないし、しっかりしてない。
春は・・・身長が小さくて、なんだか頼りない。
春の方をちらりと見ると、彼は私が何を考えているのかなんとなく察したようでなんだよと言ってきた。
加奈は・・・欠点なんてあるのかな?
秀才で美人。性格もよくて器用。
・・・憧れでしょ~
「本当に・・・欠点が無い人なんていないのかな?」
「いないよ。私が保証しよう」
加奈があまりにも自信満々に言うので、私も納得せざるを得なかった。
「うん。わかった・・・ってことで」
私は春からマイクを奪い取る。
「『残酷な天使のメアリー』から、『6兆5千3百12万4千7百10本桜』に選曲変更!」
「題名長いし!!」
「こういう歌なんだって・・・」
私たちはその日も、カラオケを満喫して楽しんだ。