Butterfly
「話したくなければ、無理に話そうとなんてしなくていい。それでもう大丈夫だよ。

でも・・・もし、話したくなったらいつでも話して。それが明日でも、10年後でも、オレは気長に待ってるから」
 
「ね」と言って、蒼佑さんが、私の大好きなとても優しい笑顔になった。

私は嬉しくて、幸せで、やっぱり彼が好きだと思った。

「・・・蒼佑さん」

「ん?」

こっちを向いた彼の腕を、私は右手でぎゅっとつかんだ。

そして少しだけ腰を浮かせると、彼の頬にキスをした。

「・・・!」

大きく目を見開いた彼が、手を口元に当て、そのまま数秒制止した。

そしてとても真剣な顔で、「ヤバい」とひと言呟いた。

「・・・オレ、死ぬ」

「えっ!?」

「千穂ちゃんがキスしてくれるとか。幸せすぎてマジで死にそう」

そう言って、蒼佑さんは固まったまま動かない。

私はどうしようかと考えて、彼の腕を軽くつついた。

「・・・死んだらやだよ」

「え!?あ、ああ!そうだね、これで死んだらもったいないな!もっと幸せに浸らないと」

「そうだ!死んだらダメだ!」と彼は自分に喝を入れる。

そんな必死な横顔に、私は思わず笑ってしまった。


(・・・大丈夫。蒼佑さんなら)


きっと、私の全てを見せたって。

蒼佑さんなら、全てにちゃんと向き合ってくれる。
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