Butterfly
気になっていた彼女のこと。

蒼佑さんから名前を聞いて、私はドキリと不安になった。

「そっか・・・。あんまり言えない立場ではあるんだけど・・・。まだしばらく、取り調べにも時間がかかりそうなんだ。

大学には体調不良って言ってあるって聞いたけど。千穂ちゃんも心配してると思ったから」

「うん・・・。心配してるよ。私もだけど・・・友達みんなで」

「そうだよね・・・。いや・・・。実は、最初に取り調べをした担当の刑事が、結構厳しく問い詰めてさ。

咲良ちゃん怖がっちゃって、それからずっと泣きっぱなしで。話が聞ける状態じゃなくなっちゃって・・・全然取り調べも進まないんだ」

困ったような表情で、蒼佑さんは話を続ける。

「しかも、咲良ちゃんのお母さんのお兄さん・・・咲良ちゃんにしたら叔父さんになるわけだけど。その人がさ、県警本部の本部長だったんだよ。

で、事件のこととか事情聴取のいきさつとか、全部本部長に伝わっててさ。それもかなり、悪いように脚色交えて。『姪っ子に何をした!』って、うちの署の対応に、それはもうカンカンで」

「そうだったんだ・・・」

それはまた別の意味で、とても大変そうだと思った。

「本部長的には、もう『何もするな』って感じみたいなんだけど。そういうわけにもいかないからね。

とりあえず咲良ちゃんの精神状態が落ち着くまでは、警察の監視をつけて、本部長の指定したホテルで彼女の保護をしてるんだ。

こっちの事情もあって、自宅にも帰すことはできないし。まあ・・・これはかなりの特別待遇になるけどね」
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