Butterfly
ポロポロと、涙が溢れて止まらない。

蒼佑さんはそんな私の頬に触れると、指で涙を拭ってくれた。

「ずっと、それで悩んでたんだ?」

声の出ない私は、無言でコクリとうなずいた。

「自分でそんなこと言うなんて・・・。もしかして、誰かに何か言われたの?」

ビクッと、震えるように肩が上がった。

すると彼は悟ったように、優しく私を抱きしめた。

「・・・可月か」

「・・・」

「いや、ごめん。あの時の・・・事件の時のあいつのことを、ちょっと思い出したから」

私の胸元に伸びてきた、可月さんの指先のこと。

蒼佑さんを傷つけたまま、秘密にしていたその理由。

「言えなかったの・・・。ごめんなさい。知られたら、蒼佑さんにも・・・嫌われたらどうしようって、怖くてずっと言えなかった・・・」

話しながら、私は、まるで子どものように泣いてしまった。

21年分の溜まった涙が、全て流れていくように。

「ならないよ。嫌いになんて」

蒼佑さんは、抱きしめた腕をそっと解くと、私の顔を覗き込む。

そして私を気遣うように、穏やかな声で語り掛けた。

「・・・触って平気?」

それは、興味とか、好奇心とか、そういうものでは全くなくて。

癒すような彼の言葉に、私はコクンと頷いた。
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