Butterfly
「・・・」

彼の指が、そっと私の痣に触れた。

その感触は、少し硬くて、なんだかとてもあたたかかった。

「・・・蝶の形してる」

痣の輪郭をなぞりながら、蒼佑さんが呟いた。

私は言葉に戸惑って、聞き返すように彼を見た。

「ほら。ここが羽」

示すように、彼の指が肌をすべった。

私は、真下にある自分の胸を、初めて見るような想いで眺めた。


(蝶・・・)


そんなふうに思ったことは、今まで一度もなかったけれど。

胸の隆起に沿うように、左右に広がった赤い痣。

それは確かに、羽を広げた蝶のような形に見えて、私はとても驚いた。

「お医者さんは別だけど。ここを触った男って、オレが多分初めてだよね?」

つらい思い出と恥ずかしさを感じながら、私は無言で頷いた。

すると彼は「そっか」と言って、私の髪をゆるりと撫でた。

「きっと、千穂ちゃんはこの痣でつらい思いをたくさんしてきたんだろ。

だから、こんなことを言われたら、嫌がるかもしれないし、キレイごとだって思われたとしても仕方がないことだけど」

「でも、あえて言うね」と、蒼佑さんは言葉を続ける。
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