櫻の王子と雪の騎士 Ⅲ
Prologue*記(しる)す者―Aizen
*
ここは魔法が存在する世界
フェルダン王国という
サクラの花弁が舞う、桃色の王国。
その王国の王子セレシェイラと、その騎士ルミアはいま、王宮にいた。
*
朔の夜が終わり、ちょうど十五日。
まん丸の大きな満月が夜空に浮かぶ中、フェルダンでは街を上げて宴が行われていた。
王国を救った若き王子と、その騎士の無事を祝うためのもの。
もちろん王宮の中もお祭り騒ぎ。
「おい!もっと酒もってこい!!足りねーよ!!」
「アイゼン隊長いい加減やめ......」
「うっせぇな!こんな日に飲まずしてどうする!!なぁお嬢!」
「はは......」
「こんな日って...!!アンタ、五日も前から酒浸りだろうが!!!」
王宮の大広間
人と食べ物と酒でごった返すそこに、我が物顔で陣取り酒を飲み続けるアイゼン。
以前、ルミアとジンノが王国を追放された時から、それまで中毒になるほど飲んでいた酒と煙草を完全にやめていたらしく
ようやく禁酒禁煙から開放された彼は今、ルミアを自身の横に侍らせ、肩を組み、連日連夜浴びるように酒煙草に浸っていた。
上機嫌に笑う彼はこれでも、フェルダンの誇る、魔法使いだけを集めて編成した騎士団である特殊部隊の隊長なのである。
本人も『鬼人・アイゼン』と各国から恐れられる、錬金術を使い戦う騎士。
なのだが、
「おらおら、もっと酒もってこーい!!お嬢も遠慮せずに飲め!遠慮してっと俺が全部飲んじまうぞ!!」
「ハハ...はい......」
顔を真っ赤にさせてげらげらと笑う彼は、もはやただの酔っ払い。
ルミアもカラ笑いするしかなく、その笑顔も若干引き攣ってしまっている。
そんな有様を呆れたように眺める特殊部隊の騎士たち。
アポロに至っては、ぐでんぐでんになってしまったアイゼンを見て、お腹を抑えて笑っていた。
「あっははは!!うけるうける!それれこそアイゼンらい長!!」
「こらアポロ落ち着け。ってかお前もちょっと酔ってんだろ」
「酔ってらいよー!ひっく」
明らかに酔っ払っているアポロに、隣で飲んでいたネロは頭を抱える。
< 1 / 208 >