櫻の王子と雪の騎士 Ⅲ
Ⅰ*闇の恋は花の如く―Grol
*
満月の夜の宴から数日。
今日もフェルダンは温かな小春日和。
フェルダンの王都から少し離れた郊外の小高い丘には、小さな一軒家が立っている。
ネロは大きな花束を持って、そこへ向かっていた。
ゆっくりと小屋の扉をあける。
「あら、また来たのネロ」
「ああ。って母さん、寝てなきゃダメだろ」
そこに居たのは一人の女性。
クリーム色のふわふわロングヘアー、にっこり優しい笑みが印象的な彼女は、ネロの母親、リラ・ファーナーだ。
「最近は頻繁に来るわねえ」
ネロから受け取った花を花瓶に移しながら、リラは笑う。
「母さん寝てろって」
「大丈夫よー最近は調子いいし。アポロくんも動いた方が良いって言ってたしねー。ねーゴロ助ー」
「にゃー」
リラの足元にすり寄る黒猫
名前はゴロ助。
最近飼い出した子猫だ。
一人で暮らす母を想い、寂しさを紛らわせるためにネロがプレゼントしたのだ。
仲良さそうにしているところを見ると、まあ上手くいっているようでネロはひとまず安心した。
以前は王都内のネロの実家で療養していたのだが、グロルの魔の手がかかりそうになった為、セレシェイラが密かにこの場所に移したのだ。
アポロの助言もあり、王国内でも空気が澄んで環境がいい場所選んだのだが、寂しい想いをしていたのではないか心配していた。
リラはなんでも笑顔で隠してしまう癖がある。
息子であるネロですらなかなか分かりにくい。
だから頻繁に顔を出しているのだが、なかなか分からないので困っていたのである。