櫻の王子と雪の騎士 Ⅲ
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ほどなくしてシルベスター一行の凱旋帰国は終了した。
その余韻を引きずるようにして王都の街はそのままお祭りに移行する。
流石に昼間っからどんちゃん騒ぎは出来ないので、明るいうちは出店がメインになる。
街中が鮮やかに飾り付けられ、商売をする人たちとそれらをめぐる人々の声があちこちで響く。
そんな中、シェイラは一人、今は無人の魔法学校第三校舎で祭壇の前に立っていた。
誰かさんによって酷く破壊されたそこは、その爪痕など一切感じられないほど美しく修復されている。
ステンドグラス越しに差し込む色とりどりの光を浴びながら、シェイラはただじっと祭壇を見上げた。
暗殺部隊《オーディン》に狙われたこの第三校舎。
彼らはここに何かしらフェルダンの強さの秘密が隠されているのだろうと考えていたようだが、実際はそんなものは存在しない。
ここにあるのは、魔法学校初代校長の墓、それだけ。
特別な力など何もない。
それでも、魔法学校に通う生徒たちが月一回の祈りの時間を欠かさないのは、《神の御加護》を得るためだと言われる。
魔法学校の初代校長とは、フェルダンの地に降り立ったという《神》の二人の息子のうちの一人、フェルダン王国二代目国王と考えられている。
つまり《人間》として初めて魔力を持って生まれた最初の魔法使い。
彼は、それから次々と生まれ始めた魔法使いたちの為に魔法を使う術を教えた。
彼らが己の持つ力で誰かを傷つけたり、誰かに傷つけられたりしないように。
それが魔法学校の始まり。
二代目国王は非常に心優しく慈悲深く、魔法使いたちの為に尽力し、その生涯を終えた。
そして当時の学び舎があったこの場所に、彼の墓が作られ祭壇が設けられたのだった。
祭壇の一部には古い文字が刻まれている。
『天から与えられしその才
喜び笑い、謳い、踊り、思いのままに生きるため
全てを知れ
傷つける為ではなく、守る術を得るために』
一体誰の言葉か。
それは誰にも分からない。
祀られている二代目王子の言葉かもしれないし、死にゆく彼に向けて贈られた最後の言葉かもしれない。
しかしその言葉は、今もなおフェルダンに仕える騎士たちの信念となり、生きている。
秘められた力など何もないが、その信念こそがフェルダンに生まれる魔法使いを強く、強く、育てるのだろう。