櫻の王子と雪の騎士 Ⅲ







 第三校舎に刻まれたフェルダンの古き歴史に想いを馳せていたシェイラはふと、我に返る。



(ルミ、...まだかな)



 ここに来たのはほかでもない。



 ルミアとのデートの待ち合わせの為。



 この日が楽しみ過ぎて案の定夜も眠れず、待ち合わせの時間のはるか前に来てしまったという始末。




「はあ~~、今更だけどどうしよう...!!」



 勢いに任せてデートに誘ったものの、今になって動揺してしまう。



 時間が経つにつれて不安が顔を出し始める。



 身なりはこれでいいか


 髪型は大丈夫か


 どこもおかしくないか



 そんな心配をするたびに、自分ばかりが必死なんじゃないかと感じる。



 自分ばかりがはしゃいで何分も前に来て、ソワソワしながら彼女を待っている。



 考えれば考えるほど虚しくなって、シェイラはそれまでの勢いをすっかりなくしその場に座り込んでしまった。



(俺ばっかり、好きで...嫌になる)








 そんな感じで落ち込み、ひたすらどんよりとしていたから気が付かなかった。



 第三校舎の入口がギイ、と音を立てて開いたことに。



 そこから現れた恋しい待ち人に。







「シェイラさん」



「...はあ...」



「...? シェイラさん」



「...ん?...んん!!?」





 見上げたそこに居たのは、眩いほどの輝きを放つ彼女。



 藍色と金色の瞳をぱちくり



 おそろしいぐらい可愛い顔でシェイラを覗き込んでくる。



 思わず息をするのを忘れてしまうほどの美しさとはこの事。



 ローグとアネルマの手を借りて人生初の化粧を施したその顔はそりゃあとんでもなく可愛らしく、より色っぽく仕上がっていて、眼前で不意打ちに目にしたシェイラはそれだけで顔を真っ赤にした。



 と言うよりむしろ今までが完全に素だったことの方が驚きである。



 
「ル、ルミ...!!!」



「大丈夫ですか?具合が悪いなら、今日は休んだ方が...」




 座り込んで顔を赤くするシェイラを心配するルミア。



 それを急いで否定する。




「いや!全然!!元気だから大丈夫!」



 慌ただしく立ち上がり、服を整える。



 そんなバタバタとするシェイラを見て、ルミアは小さく首を傾げた。



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