櫻の王子と雪の騎士 Ⅲ





「うん、いい香り。いつも悪いわねネロ」



 リラは花に顔をうずめる。



 この花はリラが昔から大好きな花だ。



 ライラックと言う名の淡い紫の小さな花。



「母さんは、昔からその花が好きだね、何で?」



「うーん、知りたいー?」



「うん」



「ふふっ、なーいしょっ!」



 リラは悪戯っぽくそう言うと、そばにあった木の椅子に腰かける。



 膝の上にゴロ助が飛び乗り、くるりと丸まった。



 リラにのど元を擽られゴロゴロと気持ちよさそう。



 


「ねえ、ネロ」


「何?」


「この前の戦い、迷惑かけたみたいね...私のせいで」



「...え、...?」



 リラの思いもよらない発言に、ネロは固まる。



 ネロは、朔夜の戦いでグロルに病弱な母リラを人質に脅され、一時的に敵側についた。



 結果的にセレシェイラとアポロの助けもあって、裏切ることなく済んだが



 リラにそのことは伝えていない。余計な心労を抱えてほしくなかったから。



 だから、彼女が知るはずないのだ。



「母さん、なんで...それ......」



「アネルマさんに教えてもらったのー」



「...アネルマ!!?あいつっ...!!」



 アネルマは先日の戦いの首謀者グロルの娘。



 彼女自身もグロルに加担したことで、今は王宮地下の牢獄に居る。



 今になって何をしようと言うのか



「ほらこれ、お手紙が届いたの。あなたなーんにも教えてくれないんだから。母さんそんなふうに育てたつもりないわあ」



 リラが机の引き出しから手紙をとり出す。



 ネロはすぐさまそれに手を伸ばすが、リラはニコニコ笑いながらするりとかわす。



「貸して」



「いーや!大事な手紙なのー」



「母さん...いう事聞いて」



 あきらかにむきになっているネロに、リラは「違うのよ」とゴロ助を撫でながら答えた。



「これに書いてあったのはねえ、謝罪文」



「え、」



「貴方を脅し、事件に巻き込ませてしまったこととか、色々かいてあった。そのこと全てに対して心から謝罪してあったわ。いい人なのねアネルマさん、やっぱりあの人の娘さんね」






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